マーケティング コラムDX

DX特集⑥:IT社会のまだ見ぬ未来へ~DXの果てしない旅路~

DX
2023.04.26

目次

はじめに

いよいよこのDX連載コラムも最終回です。これまで「DXとは何か、何を目指しているのか」「DX実現のためのIT技術にどのようなものがあるのか」「DXに経営者はどうかかわるべきか」「DX人材を育成するにはどうしたらよいのか」など、様々な側面から私たちがDXを推進するにあたっての準備ができるよう説明してきました。

最終回では、一歩引いて視界を広くして、DXの置かれている状況を、過去、現在、未来という形でまとめてみたいと思います。

画家ゴーギャンの絵画のタイトル「我々はどこから来たのか?我々は何者か?我々はどこへ行くのか?」ではありませんが、DXの道のりを次の3つのフェーズで捉えてみたいと思います。

1)DXに至るコンピュータ開発・利用の歴史~我々はどこから来たのか?~
2)DXの今の姿~我々は何者か?~
3)DXの未来を担う技術と新しい社会~我々はどこへ行くのか?~

1. DXに至るコンピュータ開発・利用の歴史~我々はどこから来たのか?~

19世紀後半から20世紀は発明の時代でした。自動車、飛行機、映画、電話、テレビ、衛星通信……と私たちの生活環境を大きく変えた技術革新の時代です。

そして、1950年代に入ると、商用コンピュータ(汎用電子計算機)の出現によって学術研究、産業の形が大きく変わります。そして、1980年代、パソコンの普及によって、個人の生活も大きく変化しました。

ビジネス分野でも、大企業でなくてもパソコンを使って業務を効率化できるようになりました。コンピュータが「誰もが使える」ものとなり、そして1990代にインターネットが普及することにより、「誰とでも繋がる」ことができるようになりました。2010年代には、スマートフォンやタブレット端末などの普及によって「いつでもどこでも使える」ものとなったのです。

このようなコンピュータのハードウェア形態の変化だけでなく、2010年代には、インターネット環境が整備されることによってデータの流通が加速されると、データやアプリケーションが手元から離れ、別のところに置かれたり、別のところで処理されるようになりました。そして、その“別のところ”として、巨大なデータセンターでデータもアプリケーションも管理するクラウドサービスが出現し、コンピュータの利用方法も大きく変わりました。手持ちのパソコン、タブレット、スマホは文字通りの「ウィンドウ」の役割を担うようになり、ほとんどがクラウドの中に入って行ったのです。

このような80年近くに亘るコンピュータの歴史の中で、今私たちはDXという新しい社会変革のムーブメントの中にいるのです。

2. DXの今の姿~我々は何者か?~

2023年2月9日に情報処理推進機構(IPA)から『DX白書2023』が公開されました。(https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/dx-2023.html

その副題は、“進み始めた「デジタル」、進まない「トランスフォーメーション」”となっています。これは、DXのデジタルトランスフォーメーションの言葉を借りたものですが、この副題から私たちの現在置かれている状態を見ることができます。

なお、この連載では、DXの段階として、デジタイゼーション(Digitization)、デジタライゼーション(Digitalization)、そして最終段階のデジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)に分けていましたので、DX白書の副題の「デジタル」「トランスフォーメーション」の区分がそのどれに当てはまるか考えてみましょう。

DX白書では、その『第3章 企業DXの戦略』の『3 取組領域、推進プロセスの策定』に以下の説明があります。

『DXの取組領域ごとの成果状況を尋ねた結果をみると、デジタイゼーションに相当する「アナログ・物理データのデジタル化」とデジタライゼーションに相当する「業務の効率化による生産性の向上」において、成果が出ている割合(「すでに十分な成果が出ている」「すでにある程度の成果が出ている」の合計)が約80%であり米国と差がなくなっている。(図表1-12)一方、デジタルトランスフォーメーションに相当する「新規製品・サービスの創出」「顧客起点の価値創出によるビジネスモデルの根本的な変革」については20%台で、米国の約70%とは大きな差があり、デジタルトランスフォーメーションに向けてさらなる取組が必要である。』[Copyright 2023 IPA]

出典:『DX白書2023』(独立行政法人情報処理推進機構(IPA))の図表1-12
[Copyright 2023 IPA]

これを見ると、“進み始めた「デジタル」”とは、本コラムの言う「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」のことを言っており、ある程度業務変革までは進んでいると捉えていることが分かります。そして、“進まない「トランスフォーメーション」”とは、本コラムの言う「デジタルトランスフォーメーション」のことを表しており、事業変革から社会の変革までは至っていないということのようです。

これによって、今私たち(日本の企業や組織)がDXにおいて置かれている状態をある程度理解することができます。

2.1 DXのありがた味、実感できていますか?

私たちが何とかデジタライゼーションにまで歩を進めていることが分かりましたが、さらにデジタルトランスフォーメーションに至るには、モチベーションの維持が大切です。そして、それは、今この段階でどれほどDXのありがた味を感じるかにかかっているでしょう。

そこで、日本の企業が今どれほどDXの恩恵を受けているかの調査結果をDX白書から見てみましょう。

次のグラフは、難易度の低いものから高いものまで「接客サービス」「営業・マーケティング」「社内業務・一般事務」「製品・サービスの開発」……「データ分析の高度化」「サプライチェーン」という項目を並べてDXによる「売上増加」があったかどうかを日米で調査した結果を表したものです。

出典:『DX白書2023』(独立行政法人情報処理推進機構(IPA))の第5部 図表5-65
[Copyright 2023 IPA]

帯グラフの一番左の青の部分が「5%以上の売り上げ増加」となっていますが、「接客サービス」では、米国は何と52.5%がこれに該当すると回答があったようですが、日本はわずか8.0%であり、その差は歴然としています。日本は、「営業・マーケティング」での10.5%が最高で、後の分野はすべて一桁でしかありません。米国は「コールセンター・問い合せ対応」の27.6%が最低で、残りはそれ以上です。

DXの恩恵に対する日米の大きな差には考えさせられますが、日本もせっかくデジタライゼーションの試みにまでは至ったのであれば、これのような現状を直視し、モチベーションを維持しつつDXを実現するにはどうすれば良いか考える必要があるかもしれません。

2.2 今見ているITの活用状況

ここで、“進み始めた”と言われているデジタライゼーションとはどのようなものか、その一端を見てみましょう。

2023年2月28日に情報処理推進機構(IPA)から『データ利活用ユースケース集 ― 組織を越えたデータ連携をビジネスに生かすヒントとして ―』という調査報告書が公開されています。(https://www.ipa.go.jp/ikc/our_activities/dt_data_guide03.html

この報告書は、「データ活用」の側面で「新たなサービス」「業務効率化」の動きを知ることのできるユースケースを汎用化してモデルとして提示していますが、そこで挙げられているデータ利活用のユースケースは以下の8つです。

出典:『データ利活用ユースケース集』(独立行政法人情報処理推進機構(IPA))の図3-1
[Copyright 2023 IPA]

「特徴(テーマ)」の欄を見ると分かりますが、「データ分析」「異業種データの組合せ」「画像データ」「音データ」「センシングデータ」「標準化データ」というように、データサイエンスを使ったり、IoT技術を使ったり、画像や音の活用など、これまでにはなかったデータの活用により、新しいサービスが出現しつつあることが分かります。

ただ、このような先進的な取り組みは、研究段階だったり実証実験の段階であることも多いと思われますが、それらの様々な取り組みの結果、新しいサービス、新しいビジネスにつながることを期待したいところです。

3. DXの未来を担う技術と新しい社会~我々はどこへ行くのか?~

さて、Webの世界では、これまでの概念を打ち破る様々な新技術が登場していますが、そのいくつかを紹介しましょう。

3.1 サイバー空間の体験を変える新しい技術

■メタバース(metaverse)

何等かの対象物(例えばデータ)を上位から俯瞰する立場を意味する接頭辞であるメタ(meta)と宇宙のユニバース(universe)のバースをつなげた言葉であり、サイバー空間に実世界の建物、部屋と同じようなオブジェクトを配置し、その中で人のオブジェクトとしてのアバターが動き回ることのできる仮想空間。
例えば、歌手のコンサートにアバターを使って行ったり、店舗で商品を買うことができるような仮想空間を作ることもできます。

■仮想現実(VR:Virtual Reality)

サイバー空間の中に作られた仮想的な世界を、視覚(映像)、聴覚(音声)だけでなく、実際に物を触ったりしているような触覚なども加えてユーザーの仮想体験を支援する技術・仕組み。ゴーグル(映像)、ヘッドセット(音声)、グローブ(触覚)などを装着して、映像の世界に入り込むイメージ。

■拡張現実(AR:Augmented Reality)

スマホなどで撮影した実世界の映像に、CGを重ね合わせて、ユーザー体験をリッチなものにする技術・仕組み。以下のような新しいサービスへの利用が考えられます。

・地図案内
・建築設計の業務効率化
・流通での業務効率化
・防災シミュレーション
・商品のデジタル・マーケティング

■デジタルツイン(Digital Twin)

インターネットに接続されたセンサーなど現実空間の情報を獲得し、サイバー空間に再現すること。2002年に米ミシガン大学のマイケル・グリーブスが提唱したもので、「ツイン」とは「双子」という意味ですが、これによって、現実世界のモニタリングやシミュレーションをサイバー空間で行うことにより、機械のメンテナンスのコストを削減したり、建築のシミュレーションで試験の代わりとするなど、様々な効果が得られます。

3.2 デジタルトランスフォーメーションが変えるIT活用社会

Society5.0という言葉をお聞きになったことがあるかもしれません。これは、内閣府が提唱しているサイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより実現する将来の社会像のことです。

■Scoety5.0の仕組み

前述のように、現在の情報社会では、クラウドの利用環境は整いましたが、人がクラウドサービスにアクセスしてデータを入手したり、アプリケ―ションを利用したりします。これがSociety4.0です。

Society 5.0では、センサーなどのIoT機器からの情報がクラウドに集められます。そしてビッグデータとしてそれらがデータサイエンスやAIによって処理され、これまでにはない新たな価値が産業や社会に生まれることになります。

出典:内閣府ホームページ『Society 5.0』(https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/)の『Society 5.0のしくみ』の図

■スマートシティ

内閣府のホームページ『スマートシティ』では、スマートシティは『ICT 等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)の高度化により、都市や地域の抱える諸課題の解決を行い、また新たな価値を創出し続ける、持続可能な都市や地域』のことだと説明されています。(https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/smartcity/index.html

そこでは、水道、河川、道路、ビルディング、公園……など、都市生活を送る中で関わりを持つあらゆるモノの情報を集め、住人にとって住みやすい環境が作り出されます。

内閣府では、スマートシティを「Society 5.0の先行的な実現の場」と位置づけています。

スマートシティでは、社会インフラが大きな意味を持つので、政府や地方自治体などの官公庁も大きな役割を果たし、民間の様々な新たなサービスと連携して住民に恩恵をもたらします。

出典:『スマートシティガイドブック』(内閣府)(https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/smartcity/01_scguide_1.pdf)のスライド本文11ページの図部分をキャプチャ

このような構想は、ひとつの企業でのDXの取り組みが、業界へ、社会へと広がることにより住民全体に恩恵がもたらされる「IT活用社会」をイメージしたものと言えるでしょう。

エリック・ストルターマン教授は、『ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させるデジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)』としてDXを提唱しましたが、スマートシティなどによって実現されるSociety5.0は、その一つの形と考えることができます(『』内は総務省2018年版「情報通信白書」での説明)。

これからも新しいIT技術やサービスがどんどん生まれることでしょう。それらがサイバー空間の中でコングロマリットな形で連携されることはDXの目指す社会そのものです。私たちは、そのような未知の社会、未知の世界へと誘われ導かれようとしているのです。

連載を終えるにあたって

これで、ひとまずDXコラムの連載は終了です。IT技術、経営の両面でDXを解説してきましたが、DXという言葉の意味するところや目指すところを理解して頂くことができたでしょうか。

ストルターマン教授が言うように、ICTの活用によって人々の生活があらゆる面でより良い方向に変化させるために、まずは、自社の現状を把握し、次に取るべきアクションをしっかりと考えましょう。それが、これから押し寄せるIT技術の大変革と、それがもたらす社会の変換の大きなうねりの中で生き残る手段となるのです。

まだ見ぬ新しいIT社会ですが、見えていないものでも見えているかのようにそこにいる自分をイメージすることによって、今なすべきことが分かってきます。そこに向かって一歩一歩進んで行きましょう。そうすれば、必ずや将来、DXによって実現した新しい社会で豊かに暮らしている自分たちを見つけることができるはずです。