マーケティング コラムDX

DX特集①:DXレポートから4年、2025年の崖まで3年、先を見据えて今考えるべきこと

DX
2022.12.01

目次

連載開始にあたって

DXに関する書籍が多数出版され、決算発表の際にも企業はDXへの取り組みを強調しています。また、このようなコラムの記事も溢れています。

「でも、DXって、いま一つ掴みどころがなくて結局何なのか良く分からない」と言った声も耳にします。

この連載では、そのような疑問を持つ方々のために、いま一度DXの定義をしっかりと押さえてDXという言葉の意味するところや目指すところを再確認したいと思います。そして、現在、ご自身の企業・組織が、DXのゴールを見据えたロードマップのどの地点に位置しているのかが分かるよう、6回を予定している本連載コラムでIT技術、経営の両面でDXを解説します。それによって、皆さんの企業・組織で次に起こすべきアクションは何かが見えてくるでしょう。

1. 今なぜDXか

企業の経営陣は、自分たちの企業の将来を見据えて長期的な事業計画を立てるに際し、常に時代の潮流を気にかけます。その中で大きなキーワードとなっているのが「DX」でしょう。

それに取り組もうとしてWebや雑誌などでIT技術の記事を読むと、ビッグデータ、IoT、機械学習、ディープラーニング、AI、データサイエンス、ブロックチェーン、RPA、モダナイゼーション、メタバース、Web3.0、DeFi、NFT、DAO、デジタルツイン・・と様々なIT用語が飛び交っていることに気付きます。しかし、これらの技術が「DX」とどう関係するのか、どう取り組めば良いのか分からない、という方々も大勢いらっしゃることでしょう。

IT技術者の側も、「2025年の崖」があと3年に迫るという状況の中で、それに対応するよう経営陣から命じられているものの、それ自体がDXなのだろうか?あるいは、さらにその先を見据えたムーブメントがDXなのだろうか?自社は今何をすべきなのだろうか?と様々な疑問が頭をよぎります。

注)「2025年の崖」とは、老朽化やブラックボックス化した既存システムを使い続けることにより、2025年頃までに予想されるIT人材の不足、既存システムの保守に必要な旧技術を知る人材の退職、ERP(Enterprise Resource Planning:経営資源計画)の代表的製品「SAP」の保守期限が2025年末で終了する等のIT業界の状況によって、経済損失が最大12兆円にも上るという問題。2018年に経済産業省が「DXレポート」で示した。(なお、SAPの保守期限はその後2027年末まで延長された。)

このように、DXという言葉が先行し現場に混乱が見られるとすれば、いま一度DXとは何かという認識を新たにし、各企業・組織が、自社のITへの取り組みの現状や課題を把握して、経営陣、IT技術者が一体となってDXへの取り組みを見直すことには大きな意味があります。

2.「DXレポート」と「2025年の崖」

このDXが日本で大きくクローズアップされたのは2018年のことです。この年の9月、経済産業省が「DXレポート」を公開し、その副題が“~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~”となっていました。そうなると、十数年、数十年間使ってきた旧来のITシステムを抱える各企業は2025年問題に対応しなければならないということで、DXへの取り組みの機運が一気に高まったのです。

ただし、ここでDXが2025年問題とセットにして語られたことにより、DXに対する若干の誤解も生まれました。それは「DX=レガシーシステムの刷新による2025年問題の回避」というものです。

もちろん、レガシーシステムの刷新もDX実現の工程の中で重要な要素ではありますが、単なるシステムの入れ替えでは、DXがもたらすはずの変革は起きないことは明らかでしょう。入れ替えたシステムもいずれまた旧式のものと見なされ「20XX年の崖」に直面するだけだからです。

そうならないためにも、DXという大きな枠組みの下で、持続可能なシステムを維持することによって企業・組織の基盤を強固なものにするという観点で、今の2025年問題に取り組む必要があるのです。

3. DXのビジネスへの適用

DX(Digital Transformation:デジタルトランスフォーメーション)という言葉は、2004年に、当時スウェーデンのウメオ大学に在籍していたエリック・ストルターマン教授が「Information Technology and The Good Life」という論文で提唱した概念です。

その意味は『ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させるデジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)』というものでした(『』内は総務省2018年版「情報通信白書」での説明。原文は “The digital transformation can be understood as the changes that digital technology caused or influences in all aspects of human life.”)

このように、DX(Digital Transformation)は、具体的なICT技術体系としてではなく、ICTがもたらす、社会学的な側面を含めた未来の生活様式を目指す、言わばスローガンとして語られていることが分かります。

ストルターマン教授の提唱したDXの広義の意味は分かりましたが、それを企業の実際のビジネス活動にどのように適用すればよいのでしょうか。

この点、経済産業省は、国内の企業におけるデジタル経営改革を推進するために取りまとめた『「DX推進指標」とそのガイダンス』では、DXを次のように定義しています。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

技術的には「データ」「デジタル技術(IT)」に着目すべきこと、そしてそれを活用して「業務」「プロセス」「企業文化」を改革することが、ビジネス的観点でのDXであることが提示されています。

このような「ビジネスのDX」を使って解決すべき課題として現在見えているものは次のようなものがあります。

  • 企業が抱えるレガシーなIT環境・IT資産の継承と変革
  • 昨今のビジネス環境での最新IT技術の活用・ビジネスプロセスの再構築
  • コロナ禍におけるテレワークの普及による業務形態の変化への対応

本コラムでは、これらの課題解決のため、ビジネス的観点でDXに取り組むために必要な考え方をしっかりと押さえ、B2B、B2Cのサービスを提供するにあたっての今後の企画・経営に役立つ情報を提供したいと思います。

4. DX実現のための3つの段階

「データ」「デジタル技術(IT)」を活用したDXを実現するには、段階的なアプローチが必要です。経済産業省が2020年に公表した「DXレポート2(中間取りまとめ)」では、次の3つの段階が提示されました。

  • デジタイゼーション(Digitization):
    「アナログ・物理データの単純なデジタルデータ化」
  • デジタライゼーション(Digitalization):
    「個別業務・プロセスのデジタル化」
  • デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation):
    「全社的な業務・プロセスのデジタル化、および顧客起点の価値創造のために事業やビジネスモデルを変革すること」
図1. DXの構造

出典:「DXレポート2(中間取りまとめ)」の図5-8の一部

4.1 デジタイゼーション(Digitization)

ここで多くの人は「デジタイゼーション(Digitization)」と「デジタライゼーション(Digitalization)」の違いが分かりにくく戸惑われるかもしれません。これはDXにとって大きなポイントですので、この違いが分かるように「デジダイゼーション」と「デジタライゼーション」を説明したいと思います。

まず、「デジダイゼーション」とは何かについて例を挙げましょう。

コロナ禍が3年近く続いていますが、当初、病院はコロナ感染者の発生届を紙で作成し、それをFAXで保健所に送って、保健所が厚労省や国立感染症研究所とつながるシステムに入力する、という非常に手間のかかる作業を行っていました。

ここでの問題の一つは、「紙媒体の発生届」という“物理データ”、「FAX送信」という“アナログ技術”を使っていることです。

これを解消するために、紙をコンピュータでの閲覧・格納が可能な“デジタルデータ”の「PDF」に置き換え、FAXという通信手段をインターネットの“デジタル技術”の「eメール」に置き換える。これが「デジタイゼーション」です。

しかし、これだけでは業務の手間は大きくは変わりません。保健所がeメールで届いたPDFの発生届をPCで表示させ、それを別システムに入力するという面倒な作業は残ったままです。

4.2 デジタライゼーション(Digitalization)

ここで解決しなければならないもう一つの問題が、「業務プロセスが分断されている」という問題です。元々「病院でのコロナ患者発生届の作成と送信」「保健所でのシステムへの入力」という2つの業務がありましたが、発生届のPDF化、通信手段としてのeメール使用だけでは、「保健所でのシステムへの入力作業」という業務とつながっていないという状況は何も解決しません。

そこで「デジタライゼーション」の出番です。

保健所の業務負担の軽減のため、厚生労働省は2020年5月末から「HER-SYS」(新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム)の運用を開始しましたが、これによって医療機関はコロナ感染者の患者情報をこのシステムに入力し、それが、保健所でも情報共有されます(保健所、医療機関、自治体などの関係者の間での情報共有が即時に行えるようになりました)。

これは、「病院での発生届 → 保健所での別システムへの入力 → 厚生労働省などが把握」という業務プロセスの仕組み自体を「Webによる一括管理・閲覧」という変革を行ったことになります。

※ここで「HER-SYS」を例に挙げましたが、「HER-SYS」自体、その後、入力の手間がかかるのでコロナ患者が急増し医療体制がひっ迫した時には医療機関に大きな負担となったという運用面での問題も指摘されました。このようにITシステムは技術的な側面だけではなく、運用面での課題や他の問題も抱えることがあります。従って、このコラムで「HER-SYS」をDXの成功事例として推奨している訳ではなく、飽くまでDXのイメージを掴んで頂くための一つの例として示したものであるということをご承知おきください。

4.3 デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)

次の図は、「DXレポート2」(経済産業省、2020年)でDXの各アクションを左の縦軸見出しの「取り組み領域」と上部の横軸見出しの「DXの段階」に分けて整理したDXフレームワークです。

図2. DXフレームワーク

出典:「DXレポート2(中間取りまとめ)」の図5-9

先に説明したコロナ禍での医療分野でのデジタイゼーション、デジタライゼーションの例は取り組み領域「業務のデジタル化」に相当します。

次に考えるのが「デジタルトランスフォーメーション」です。

図2では、「業務のデジタル化」のデジタルトランスフォーメーションとして「顧客とのE2E(End-to-End:最初から最後まで一気通貫)でのデジタル化」となっています。そこまでの段階では組織内・関係者内での業務の改善を図ったものでしたが、ここでは「顧客視点での価値の創出」という外向きのサービス提供概念が見えます。

これには、個別システムが連携することによって、様々なサービスがE2Eの形で提供される新サービスになることにより、「CX」(Customer Experience:カスタマーエクスペリエンス)の向上につながるというビジネス上重要な要素が含まれています。

業務がつながっていないことによる不便さは、例えば、役所などで、関連する一連の申請を行うときに、色々な届け出書類に何度も同じ情報を書かなければならなかったり、別の部署に行かなければならなかったり、という経験をお持ちの方はよく分かると思います。

つまり、デジタルトランスフォーメーションは、単なるシステムの問題だけでなく、顧客・ユーザーとの関連性において語るべき段階と言えるでしょう。

5. 企業が取り組むDXの2つのタイプ

デジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーションというDXの一連の流れを説明しましたが、企業がビジネスを推進する際にDXが意味するところは2つあります。一つは既存業務をデジタル技術を使って変革すること、もう一つは新規ビジネスを創出して業界におけるプレゼンスや競争力を高めることです。

5.1 業務の変革

既存の業務がビジネス推進の足を引っ張っていることがあります。「2025年の崖」問題はまさにこの典型でしょう。また、最新の技術を使えば(例えばクラウドサービスを使うことにより)、設備投資、メンテナンス費用、アプリケーション開発費の削減など企業の負担が大幅に減ることもあります。また、社内業務の工程が改善され、社員の業務負担軽減にもつながるでしょう。

最新デジタル技術を使った業務の変革・リニューアルは、企業にとって大きなメリットがあります。

5.2 新規事業の創出

これは、アイデアやひらめきが必要な領域かもしれません。新しい時代、新しい技術環境の中でユーザーがどのようなものを求めているかを把握し、新規事業を創り上げることにより、企業のビジネスは次のステージに導かれます。そのステージは過去の延長線上にあるだけでなく、全く別のジャンルに移るという場合もあるでしょう。

このようなチャレンジが企業活動を活性化し、継続的な発展へと導くものとなるのです。

企業は、「守り(業務の変革)」によってビジネスの地歩を固めつつ「攻め(新規事業の創出)」にもチャレンジするという2つの活動をバランス良く実践することで現在と将来の成長を見ることができるでしょう。

なお、産業界の変革や社会の変革というさらに大きな枠組みでのDXもありますが、本コラムでは、ビジネス向けDXということで、一つの企業内でのDXの実現について説明しています。

図3. 様々なレベルでのDXの実践とそれがもたらす変革

6. DX企業は変幻自在

GAFA(Google、Apple、Facebook(現Meta)、Amazon)の一角を成し、書籍のインターネット小売りサービスからIT業界の覇者となったAmazonですが、当初はインターネットを使った書籍の購入・決済システムを使ったオンライン書店サービスでした。

読者の中には、1997年に、社長のジェフ・ベゾス氏自ら、100万人目の注文者となった日本人のところに洋書を配達しにやって来て手渡ししたというニュースをテレビで見たことを覚えている方もいらっしゃるかもしれません。紙の書籍を配達したという状況から分かるように、その当時はまだ「インターネットを使ったオンライン書店」だったのです。

その後、書籍自体の形式も電子書籍の出現によって大きく変わりました。もちろんAmazon は、その流れに乗り、電子書籍リーダーKindleを開発し、電子書籍の販売も行うようになりました。「紙の書籍」から「電子書籍」への転換です。

その後、音楽ソフト販売でもCD、MP3ダウンロード、ストリーミング配信、とその時代の技術と共に形を変えるなど、様々な商品を取り扱い、ついに食品まで販売リストに加えるまでになり、今や「インターネットのオンライン百貨店」の様相です。

さらに、Amazonが構築した世界的な小売システムはIT技術の巨大な塊だったわけですが、Amazonは、その技術力をITの新たな分野にも振り向けました。AWS(Amazon Web Services)というクラウドサービスも提供するようになり、AI、IoT、機械学習などのアプリケーションも提供するなど、最先端のIT技術を駆使したサービスを提供しています。

このように、DXの成功企業は、「ビジョナリー(Visionary:しっかりとしたビジョンを持つ先見の明のある人)」としての感覚を持ち合わせた経営者・経営陣の下、常にITの最新動向を取り込みながら変幻自在にその姿を変えることができるのです。

7. DXが描く未来のビジネス環境

ビジネスの世界では、技術革新の波に乗り、より多くの顧客をつかむことによって成功を勝ち取ることができます。そのために企業は既存業務の改善を図り、新しい分野にもチャレンジするのです。まさにここまでに考えてきた「業務改善」と「新規事業の創出」であり、DXは企業が生き残りを図るための鍵となることが分かります。

ところで、ビジネスの世界では、時に破壊的な技術革新によってビジネスモデルが大きく変わることもあります。IT技術がそれを引き起こすとき、それを「デジタル・ディスラプション(Digital Disruption)」と呼びます(Disruption:破壊)。

Amazonがインターネットの通販サービスモデルを作り上げたことにより、いくつかの既存の小売事業者が市場からの撤退を余儀なくされたことなどは、この例と言えるでしょう。「デジタル・ディスラプション」を起こす参入者は「ディスラプター(Disruptor:破壊者)」と呼ばれます。

7.1 Web3.0:新たなデジタル・ディスラプションの予感

現在、Webのプラットフォーマーとして米国勢のGAFAと呼ばれる「ディスラプター」がそれぞれの分野で中央集権的なビジネスモデルで覇権を握っていますが、同じような構図で、中国勢のBAT(Baidu(バイドゥ)、Alibaba(アリババ)、Tencent(テンセント))などの新興勢力も登場してきました。それが現在のWebの世界を形作っていると言えます。

GAFAなどの覇権を握った勝ち組企業と、それに従属するその他の企業という構図はこれからも変わらないのでしょうか。将来の予測は難しいかもしれませんが、Webの世界でも新たな横のつながりを持った非中央集権的なコミュニティ運営の概念も登場しています。

DAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)とは、GAFAなどが君臨する中央集権的な現在のWebの世界に対し、ブロックチェーン技術を使って非中央集権型の意思決定を行う組織形態を指して使う言葉です。

現在の各企業の構造がDAOに取って代わられるというものではないにしても、企業間の結びつきにおいてDAO的な概念が入ってくる可能性があります。すると、GAFAの傘下に他企業が吸い込まれてゆくような状況の現在のWebの世界/産業界の中央集権的ピラミッド構造とは異なる新しい企業間の繋がりや協調の仕方が生まれるかもしれません。そこにゲームチェンジャーとしてのディスラプターが登場する余地は大いにあります。

7.2 企業間の競争から企業同士の共創へ

最近、経済環境の変化に伴い、Meta(旧Facebook)やAmazonが従業員の削減を行うというニュースが流れましたが、GAFAと言えども必ずしもその存在は絶対普遍のものではありません。

その中で次なるデジタル・ディスラプションにおいて非中央集権的なビジネスモデルが現れるとすれば、それぞれのプレーヤーがWin-Winの関係で繁栄を見るという新しい流れが生まれるかもしません。

それは、「競争」ではなく「共創」です。そのような未来の社会像を描くことができる「ビジョナリー(Visionary)」が今求められているのかもしれません。

その先に、「ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という、当初ストルターマン教授の提唱したDXによる社会・文化の変革が待っているのです。

今回は、DX提唱者による広義のスローガン的定義からビジネスに適用したDXの定義とそれに対する取り組み方まで説明しました。やや抽象的な話だったかもしれませんが、DXへの取り組みの方向性をイメージして頂けたでしょうか。

次回は、DXで使われる具体的な技術について説明します。どうぞお楽しみに。