マーケティング コラムデジタルマーケティング
プロダクトアウト・マーケットインとは?顧客へのアプローチの違いを解説
企業が商品開発をする上で考え方が2つあります。それが「プロダクトアウト」と「マーケットイン」です。
いずれの考え方も、商品を開発して顧客に届けるまでのプロセスを意味する点は同じです。しかし、アプローチの方法が異なるのが特徴です。
それぞれの考え方やそのメリット・デメリットを正しく把握した上で、企業や商品にあった考え方を取り入れて商品開発・販売を行いましょう。
今回は、プロダクトアウトとマーケットインの定義からその違い、それぞれのメリット・デメリット、成功事例まで解説します。
- 1.プロダクトアウトとは
- 2.マーケットインとは
- 3.プロダクトアウトのメリット
- 4.プロダクトアウトのデメリット
- 5.マーケットインのメリット
- 6.マーケットインのデメリット
- 7.プロダクトアウト・マーケットインの成功事例
- 8.プロダクトアウト・マーケットインはどちらを選んだほうが良いか
- まとめ:プロダクトアウトかマーケットインかに関わらず「顧客」を重視しよう
1.プロダクトアウトとは
「プロダクトアウト」とは、企業の方針や思想を元に作りたいもの・売りたい商品の開発を行うという考え方です。
つまり、良いものを作れば売れるという売り手側の論理を中心にした考え方で、顧客やその集合体である市場のニーズよりも企業側の考え方を重視します。
市場のニーズを重視して商品開発を行うマーケットインとは対義語になります。
2.マーケットインとは
「マーケットイン」とは、市場のニーズを理解した上で、それを満たすために商品開発をするという考え方です。
つまり、企業の方針や製品ではなく、市場のニーズを中心に据えるため、上述したプロダクトアウトとは対になります。
日本においても高度経済成長期のような大量消費の時代においては、市場自体が成熟していなかったため市場のニーズを重視しなくてもモノが売れました。
しかし、昨今はモノが溢れた結果、ニーズを満たせない商品は売れません。その結果、近年重視される考え方になっています。
3.プロダクトアウトのメリット
プロダクトアウトには主に4つのメリットがあります。
・画期的な商品になる可能性がある
・定番商品になり、長期間売れる可能性がある
・自社の強みを活かせる
・(商品が売れた場合)コスト削減になる
以下で説明します。
3-1.画期的な商品になる可能性がある
プロダクトアウトで商品開発を行う場合、既存の市場には無かった画期的な商品になる可能性があります。
プロダクトアウトでは市場のニーズを重視しない結果、既存の概念を覆す商品などが生まれることがあるからです。
具体的には、音楽をいつでもどこでも聞けるようにしたSONYのウォークマンやガラケーからスマホへの流れを作ったApple社のIPhoneなどが挙げられます。
反対に、マーケットインで市場のニーズを元に商品開発をすると、どうしても今ある需要を満たすものとなるため既に市場にあるような商品になりやすいです。
プロダクトアウトで既存の競合商品と一線を画すものを開発できれば、市場を独占し大きな売上をもたらすでしょう。
3-2.番商品になり、長期間売れる可能性がある
プロダクトアウトで生まれた商品の中には、定番商品として長い間市場から愛されているものも少なくありません。
例えば、ポカリスエットやカップヌードルなどは、特定のターゲット層からの需要によらず万人に共通するニーズを捉えた結果、長期間に渡り売れ続けています。
目先の競争や市場にとらわれない商品作りは、結果として市場に求められ続けられる定番商品になり得る可能性を秘めています。
3-3.自社の強みを活かせる
プロダクトアウトは、 顧客や市場のニーズに合わせたマーケットインと異なり、自社の方針を基につくりたいものや売りたいものを作るという考え方です。
そのため、 自社の貴重なリソースである強みを存分に活かして商品開発を行えるのが大きなメリットです。
また、その強みに独自性があれば競合他社は簡単に真似ができません。差別化を図り市場での優位性を確立することで、高い利益を得ることもできるでしょう。
3-4.(商品が売れた場合)コスト削減になる
自社の強みを活かして商品開発を行う結果、マーケットインでは必須である顧客や市場のニーズを知るための市場調査や分析にリソースを割かないため、その分のコストカットができるのもメリットです。
自社の強みを活かし、既にあるリソースを活用することが多い点でもコストカットに繋がることがあります。
ただし、プロダクトアウトで開発した商品が売れずに開発コストを回収できなくなるリスクはあるので留意しましょう。
4.プロダクトアウトのデメリット
プロダクトアウトには、メリットだけでなく、以下のようなデメリットがあります。
・商品がニーズに合わず、売れないリスクがある
・(商品が売れなかった場合)コストがかかる
下記で詳細を説明します。
4-1.商品がニーズに合わず、売れないリスクがある
プロダクトアウトの場合、マーケットインのように市場のニーズを調査した上で開発するのではなく自社が作りたい商品を作ります。
その結果、自社の想定と異なり、市場のニーズに合わずに商品が売れないリスクも存在します。
プロダクトアウトでは自社の作りたいものを作って売るという性質上、一大プロジェクトとして多額の事業投資をして商品を作ることも少なくありません。
こうしたプロダクトアウト型の商品が売れなければ、それまで投じたコストを回収するだけの売上が立たない危険性があります。
5.マーケットインのメリット
上記ではプロダクトアウトのメリット・デメリットを見てきましたが、マーケットインには3つのメリットがあります。
・市場に既にあるニーズを満たしやすい
・大きな失敗をしにくい
・売上予想を立てやすい
以下で説明します。
5-1.市場に既にあるニーズを満たしやすい
マーケットインは、市場のニーズを調べた上でそれを満たす商品を開発するという手順をとります。そのため、市場に既にあるニーズを満たして顧客に必要とされやすいです。
例えば、アサヒ飲料株式会社のワンダ・モーニングショットがその一例です。
朝に缶コーヒーを飲む男性サラリーマンが多いことを市場調査した上で朝のサラリーマン需要を満たす製品を開発してロングヒットを記録しています。
参考:“朝専用”で缶コーヒー戦争に革命――アサヒ飲料「WONDA モーニングショット」:コンビニ、ヒット商品の理由 – ITmedia ビジネスオンライン
このように、市場調査の段階でターゲット層も明確にするため、的外れな商品を作る確率を限りなく減らすことができます。
5-2.大きな失敗をしにくい
マーケットインの場合、事前に市場調査などを行い消費者のニーズがあることを確認した上で商品を開発します。そのため、顧客に必要とされずに売上が全く立たないなどの大失敗にはなりにくいのがメリットです。
また、市場調査費用などがかかる反面、商品開発時はターゲットのニーズを満たす商品作りに専念出来るため、試行錯誤にかかる労力や費用を省くことにもつながります。
5-3.売上予想を立てやすい
マーケットインで市場のニーズを満たす商品は、市場調査の段階でターゲット層を把握した上で「これくらい売れるだろう」という定量的な予想を立てやすいです。そのため数字に基づいた計画的な販売が可能です。
6.マーケットインのデメリット
マーケットインにもメリットだけでなくデメリットが存在します。以下の3点です。
・画期的な商品になりにくい
・競合他社との差別化が難しい
・市場調査などにマーケティングコストがかかる
下記で説明します。
6-1.画期的な商品になりにくい
マーケットインでは、今市場にある需要を満たすことを重視しているため、プロダクトアウトのような潜在ニーズを満たす商品を作ることは難しいです。
潜在ニーズとは顧客がまだ気づいていないニーズであるため、マーケットインではアプローチ出来ないからです。
その結果、将来新たに求められるような画期的な商品にはなりにくく、大失敗をしない反面、世の中を変えるような革新的な商品にはなりにくいです。
6-2.競合他社との差別化が難しい
マーケットインでは、市場のニーズを調べた上でそれを満たす商品を開発するという流れをとっています。
しかし、そのニーズには限りがあるため、結果として競合他社と似通った商品ができてしまうのです。
また、競合との差別化が難しい場合、市場で勝つためには価格競争などに巻き込まれやすく、利益が減ってしまうリスクもあるでしょう。
6-3.市場調査などにマーケティングコストがかかる
マーケットインでは、商品開発前における市場調査に重きが置かれます。市場のニーズを満たすことが最優先事項だからです。
その結果、実際に商品を開発して売上を立てる前にマーケティングにかかる労力や費用がかかってきます。
より良い商品を作ることに専念したいと考える企業にとっては、デメリットに成り得るでしょう。
7.プロダクトアウト・マーケットインの成功事例
「プロダクトアウト」と「マーケットイン」の成功事例はそれぞれ多数ありますが、以下に代表的な例を紹介します。具体的な事例を通じて、各々の考え方を理解してください。
7-1.「プロダクトアウト」の成功事例:Apple 社の iPhone
Apple 社の iPhoneはプロダクトアウトで生まれた有名な成功事例の一つです。
IPhoneが誕生した2007年においては、現在ガラケーと呼ばれる携帯電話を使う人がほとんどで、当時はIPhoneに懐疑的な人も多かったです。
しかし、アップル社のスティーブ・ジョブズによる徹底的なこだわりを具現化した形でIPhoneが発売されると、徐々に人々がその魅力に気づき、後に爆発的な売上を記録しました。
スティーブ・ジョブズは、自身が顧客であった場合にどういった製品が欲しいかを徹底的に追求していく点で顧客のニーズを徹底して考えていました。
しかし、市場調査に頼らない姿勢や、既存顧客の話を聞かないことで有名だったというエピソードからも、こだわりのある商品開発に専念するプロダクトアウト型であることが伺えます。
参考:スティーブ・ジョブズ全発言: 世界を動かした142の言葉
7-2.「マーケットイン」の成功事例:ユニバーサルスタジオジャパン
USJ で知られるユニバーサルスタジオジャパンは、作り手を重視するプロダクトアウトから来場者のニーズを重視するマーケットインに切り替えた結果、 業績悪化からのV字回復を成し遂げたことで有名です。
事実上の経営破綻状態にあった2004年頃は、映画専門のテーマパークというコンセプトで運営がされていました。
しかし、2010年にマーケターである森岡毅氏が入社して以降、顧客のニーズを重視するマーケットインが取り入れられました。
その結果、万人受けするアトラクションに変化し、新規顧客を獲得したことで、業績が大きく回復していきました。
映画に限らずニーズがあればゲームやアニメのキャラクターなども積極的に起用されたのは、マーケットインを象徴するエピソードと言えます。
参考:マーケティングの見本!USJマーケティング戦略をひもとく
8.プロダクトアウト・マーケットインはどちらを選んだほうが良いか
以上では、プロダクトアウト・マーケットインそれぞれの定義やメリット・デメリットについて見てきましたが、どちらの方が良いとは断言することは出来ません。
マーケティングにおいて重要なのは市場にいる一人ひとりの顧客だからです。
プロダクトアウトだからと言って顧客を無視しては売れませんし、マーケットインだから顧客のニーズを確実に満たして売れるということもありません。
プロダクトアウトでも、顧客がまだ気づいていない潜在ニーズを発掘してそれを叶える商品を作るという意味で顧客を大切にしています。
また、新しい商品を開発する場合においてはプロダクトアウトで考えた上で、マーケットイン的に顧客目線を持つという立場をとることも可能です。
柔軟な考え方を持ちながらも、顧客を重視することが重要です。
まとめ:プロダクトアウトかマーケットインかに関わらず「顧客」を重視しよう
今回は、プロダクトアウトとマーケットインについて、それぞれの考え方を見てきました。
昨今では顧客ニーズを主軸としたマーケットインが重視されている傾向にあります。
しかし、顧客も気付いていない新しい需要を掘り起こす潜在的な力を持つのはプロダクトアウトになります。その結果、革新的な製品やサービスとなる可能性も秘めています。
どちらを採用するにせよ、双方の考え方を理解した上で、顧客を最も重視して商品開発やマーケティング活動を行ってください。